2011年11月15日火曜日

【A代表】 "つまるところ、狙いは?" 北朝鮮 VS 日本


北朝鮮 1-0 日本代表


概要
既に3次予選突破を決めた日本代表は、平壌に乗り込み
北朝鮮と試合をするという歴史的な瞬間を迎える。
否が応でも政治的要素が入り込むこの1戦。
僅か150人のサポーターは北朝鮮の警察に囲まれ、
日本代表からすれば異様な雰囲気の金日成スタジアムで
日本代表は立ち上がりから厳しい戦いを強いられることとなる。
"偉大なる父・金日成"の膝下で行われるこの試合の行方はいかに。


■異様な熱気に包まれた金日成スタジアム

北朝鮮名物(?)マスゲームの舞台もここ金日成スタジアム
日本とは正式な国交が無く、渡航も自粛要請されている国、北朝鮮。5万人とも言われる北朝鮮サポーターに対し、日本サポーターに用意されたのはわずか150席のみ。携帯電話やカメラは全て旅行代理店に預けられ、テレビ局も二台のカメラしか入れることが出来ない。鳴り物・横断幕も禁止されたサポーターは、ただ黙って試合の行方を眺めることしか出来なかった。
そんな中入場してくる両代表。"ブーイングの方法を知らない"北朝鮮サポーターは、僕らが知っているのとは違う、何か叫び声のような、罵声のような、そしてどこか歓声のような声で、日本の国家をかき消した。この日の日本代表は、既に3次予選突破と最終予選進出が決まっている分、これまで出場機会の少なかった選手がメインのメンバー。ベンチコートを着こみ、その上からビブスを羽織った遠藤を見た時に「お、今日はそういう日か」と思いましたが、メンバーを見て納得。消化試合で遠藤抜き・かつサブメンバー主体での戦いというテストが出来るなーと思いつつ、キックオフを待ちます。


■日本代表の"心臓"抜きでいかに戦うか?
単なるブロガーじゃなかったんです。
今さら言うことでもないけれど、オシム以降の日本代表で最も替えのきかない存在が遠藤保仁です。このブログで遠藤がいかに凄いか、等という話をしても仕方がないので、気になる方はこちらの「"本田不在"以上の悲劇をもたらす、"遠藤不在"対策を考える」という記事を御覧ください。さてさて、先述の通り司令塔遠藤を欠いたサブメンバー主体のテスト・マッチ的色彩の濃いこの試合。実際、オシム時代からほぼ休みがなく満身創痍に近づきつつある遠藤を欠くという場面は今後想定される分、この試合は非常に意義のあるものになるかと思われます。・・・ですが、この試合を遠藤不在のテストマッチと位置づけた時に、少し選手起用に気になる点が。それは最終ラインに吉田麻也がいないという点です。少々話が脱線すると、カテナチオを生んだ国イタリアの出身であるザッケローニですが、この吉田の重用というのはある意味ステロタイプのイタリア人らしく無い采配だな、とおもしろく思っています。というのも、センターバックに単純に守備力だけを求めるならば、吉田よりも適した人材は多くいます。将来性などを考えても、単純な守備専門の選手として捉えたならばそこまで稀有な存在ではない。では、なぜがザックは吉田を使い続けるのか。それは彼のオフェンス・センスにあると思っています。彼が普通の盆百のディフェンダーと違うのは、攻撃の起点となるパスを出せるディフェンダーである、という点です。これはつまり、従来は遠藤に偏りがちな、ゲームのバランスを整え、パスを散らし、相手の出方を伺いつつバランスを崩す縦パスをスッと一本通すという役目を分散する役目を有していると言えます。その辺りの話は、僕よりもこちらの記事をご覧になっていただいたほうがいいでしょう。岡田監督時代はその役目を闘莉王が担っていましたが、ザックはある程度評価が固く計算の立ちやすい闘莉王よりも、吉田の更なる成長にかけるということで彼を重用しているように思います。ですから、遠藤のいないテストマッチでビルドアップの仕事を請け負う練習をすべきなのは間違いなく吉田麻也なのですが・・・スタメンに名を連ねている様子はありません。練習で怪我等を負っての欠場でないとすれば、ザックはこれをテストマッチだと捉えていないのか、もしくはビルドアッパー不在で戦おうというポーズなのでしょうか。後ろから吉田麻也-遠藤保仁-本田圭佑とセンターラインにしっかりとボールを捌ける選手を配置してきたチームにとって、そのいずれもを欠く試合というのは、ほぼ屋台骨を失った屋台としか言いようがないのですが、何かプランがあってのことなのか・・・少し不安を感じたのを思い出します。

■"アウェーの洗礼"どころじゃない強烈なアウェー感の中で
"冷静沈着"遠藤保仁
今までの日本代表は、立ち上がりの猛烈なプレッシャーの時間帯や、アウェーで相手の気合に押されて落ち着かない試合では、遠藤にボールを預け、そこから的確に空いている選手に配分することで徐々にペースを握るという戦い方をしてきましたが、今思えば、これはある意味遠藤に依存しすぎたゲームの作り方だったと言わざるを得ないのかもしれません。前述のように、センターラインのボールを捌ける選手を全て欠く日本代表にとって、この時間帯を乗り切るほどの連携度はありません。当然です、今までその役目を遠藤一人が負っていたのですから。私としては、ここで吉田麻也がどれだけビルドアップを請け負えるのか見たかったのですが・・・。繰り返しになりますが、日本代表にとってセンターラインは生命線です。そのセンターラインの一番前をつとめる本田圭佑を怪我で欠いた初戦に、本田のポジションに阿部が入ったものの、まるでゲームに収まりが出ず、その後に配置転換して入った長谷部でもまるで駄目で、結局落ち着かないまま90分を終了したウズベキスタンとの試合を思い出してみても、このセンターラインがいかに日本代表にとって重要かはわかっていただけるかと思います。中央で的確にボールをキープし、かつ分配できる選手がいてこその戦い方をするチームがザックジャパンなのだということは繰り返すに値することだと思います。ですから、ホームの利を得た北朝鮮のプレッシャーのなかで、ゲームを落ち着けて自分たちのペースに持っていくことが出来ません。このことは、試合後インタビューで悔しさを滲ませながら「自分たちの戦いが90分で一度も出来なかった」という今野の発言からも明らかなことだと言えるでしょう。本田圭佑一人の不在は、中村憲剛を起用することにより多少穴を埋められた感はありますが、遠藤・吉田の不在を同時に埋められるほどではありません。それほどスペシャルな選手がいたならば、とっくにレギュラーを張っているでしょう。出来るとすれば遠藤保仁その人しか日本には存在しません。世界に目をやれば、バルセロナのシャビクラスなら楽々こなしたでしょうが、シャビがベンチスタートする程日本代表のレベルは高くありませんし。冗長になりましたが、なんとかゲームを形作るために日本も模索します。まず、前半10分過ぎだったでしょうか、ザックの指示で中村憲剛がボランチの位置に入り、代わりに長谷部がトップ下にあがることで、若干の落ち着きが生まれてきます。正直なところ、最初からそうすればよかったじゃないか・・・と思わざるを得ませんが、始まってしまった以上これは仕方がない。その下がってきた中村を起点に、右サイドバック駒野、右サイドハーフ清武と右サイドを中心にゲームを組み立てていきます。従来の日本代表の主戦場が長友・香川・遠藤のいる左サイドであるのに対照的ですね。これで何とかゲームバランスを整えつつ、戦うことが出来るようになります。

■wish 本田 were here...
組み立てもできちゃう万能FW・前田遼一
なんとか徐々にビルドアップは出来るようになってきた日本代表。しかし、そこからあと一歩が遠い。トップ下に入った長谷部ですが、前述のウズベキスタンでも見たように、このポジションにはほとんど適性は無いと言ってもいいでしょう。クラブでは普段ボランチをこなしつつ、代表ではトップ下に入り見事に適応している中村のクレバーさが目立ちます。これは私の体感の域を超えないのかもしれませんが、トップ下は本当にセンスのいるポジションです。あるとすれば前方からのプレッシャーしかないボランチに対し、トップ下は持った途端相手に囲まれる恐ろしいポジションです。状況判断のスピード、相手を掻い潜る技術、そしてポジショニングのセンスと要求される要素が非常に多いポジション。今日のベンチで適性があるのは香川と清武ぐらいですが、香川は温存と決め込んでいるのでしょうし、ザックはあくまで清武をサイドで使いたいらしく、結果としてトップ下にボールを収められる選手が不在となる。本気で勝ちに行くならば、長谷部と中村のダブルボランチに移行し、ボランチで先発した細貝を下げてトップ下にプロパーが行くように配置すべきだったでしょう。しかし、そうする気配はない。私はここでその理由をしばらく考えてみたのですが、おそらくは1トップで先発している前田遼一のビルドアップセンスを買ってのことでしょう。ネット世論などを見ていても、前田に対する評価は二分されていて、しかも趨勢は前田不要論に偏っているように思えます。それもわからないでもありません。というのも、代表における前田は、クラブチームにおける役割とは随分違った働きをしているからです。アジアカップなどで特によく見られましたが、彼はサイドに流れたり、またはサイドに流れたりと、香川-本田-岡崎というアクの強い「俺が俺がタイプ」の1.5列目が上手くゴール前に顔を出せるように絶妙な配慮をしていたのです。そのためにはデコイラン(無駄走り)も惜しみませんし、体を擲って潰れ役も買って出ます。私はかつて記事の中で清武をして「周囲を活性化させる触媒男」と呼びましたが、前田遼一もまた同じような役割を果たしています。彼の特徴がよく出たのがアウェーのタジキスタン戦で、ゲームの流れを決定付ける2点目は、ハーフナー・マイクと代わって投入された後に、1列下がってボールをさばき、その裏の香川のためにサイドのスペースを作って走って受けさせた後、香川のクロスに対しニアに飛び込んで潰れ、ファーの岡崎にボールが渡りやすくするという地味でありながらも完璧な役回りを果たしました。更には、そうやって岡崎に花をもたせた後は、今度はゴール前でフリーの岡崎に出さず自分でキープしてシュートをネットに突き刺すという、今までの前田らしからぬ、それでいて同時に前田に何よりも期待されていたこともやって見せました。これらは、ファーサイドでクロスボールを待ったり、ポストプレーで味方にボールを落とすのをメインとするハーフナーでもなく、裏でボールを受けるか、低めの位置でボールを持って自分で仕掛ける李忠成には出来ないプレーであって、私はこれを見た瞬間に「あ、当分は前田は安泰だな」と感じたのを覚えています(このタイミングで言うのは後出しジャンケンっぽいと言えばそうなのですが、私はザックジャパンにおける前田遼一は本当に掛け替えのない選手として評価を一貫してきたつもりです)。しかし、だからこそこの前田のプレーをピッチの外・目の前で見ていたザックが信頼をより高めていたとしても何もおかしくはありませんし、そう考えると非常につじつまが合うように思えます。つまり、アウェー・タジキスタンで得点の起点となり、潰れ役もやってお膳立てをしながら、自分も得点までしてみせた前田に、頼りない長谷部のトップ下の役割を分担させようとした、と考えるのが一番スムーズだと思われる、ということです。・・・しかし、不運にも、前田と清武が同じピッチに立ったのはそれほど長い時間ではなかったこともあり、あまり連携が上手く行きません。トップ下の長谷部はほとんど空気だし、清武は「使われる選手」というよりはどちらかと言うと「使う選手」、前田も下がってきて「使う側」に参加しだすと、「使われる側」が岡崎しかいませんが、これは日本代表のこの試合の主戦場とは逆サイドの右サイド。当然、攻撃はちぐはぐで中々実を結びません。そんな中、なんとか0-0に抑えての前半終了。後半の戦い方に注目していきたいところです。

■後半早々失点して、段々とおかしな方へ・・・?
後半キックオフ、メンバーは変わらず。あるとすれば香川投入かな、と思っていましたが、やはり温存と決め込んでいるようです。ドルトムントの監督ユルゲン・クロップも毎回激怒しているようですし(記事)、これはおそらく揺るがないでしょう。とすれば、前半のちぐはぐな戦いを続けることとなりますが・・・と思っていると、後半立ち上がりに早々に失点。サッカーというのは、立ち上がりと言われるゲーム開始・またはハーフタイムからの再開の15分ごろまでにスコアが動くことが多いのですが、今回もまさにそのとおり、ずっと好機を伺っていた北朝鮮がヘディングで先制点を決めます。これに対してとうとう動き出すザッケローニ。呼ばれたのは内田、交代するのは14番中村憲剛、ふむふむ3バック移行かしら・・・と考えてましたが、え!?ケンゴ外しちゃうの??と思わず二度見。なぜ中村なんだ・・・。これには眼を疑ってしまいました。というのも、フォーメーション移行の是非はともかく、この試合における唯一のパスの出し手であり、かつ今回はバランスの取り手でもあった中村を外すということは、少し理解しがたい何かを感じます。定石でいうならば細貝を外すべきだと思うのですが、何か細貝に賭けたいものがあったのでしょうか・・・。ということで、また案の定ですが、パスの出し手がいなくなります。その後にハーフナー・マイクが入って、ますます狙いがわからなくなる。というのも、ハーフナーのような高さを活かしたいのであれば、遠くからでも正確なボールを供給できる中村などは必須となる選手だからです。そして、そのあとは李。朝鮮人学校で育った選手ですので、この試合にかける思いは一塩であり、個人的な願望としては彼を先発で使ってやってほしかったのですが・・・。それは置いといて、これで若干3-5-2のような形になります。あとはもうイケイケドンドン。どんどん人数をかけてゴール前に迫りますが、なかなか最後の一発が決まらずに時間だけが過ぎていきます。相手選手が審判に執拗に抗議をして退場するという幸運も生かしきれず、結局は試合終了。結局のところ、事前に十分に考えられたであろう遠藤不在の対策を試合が始まってから行い、細貝と長谷部という潰し屋気質のボランチを並べバランスを欠いて、更には放り込みサッカーをするのに正確なフィードの持ち主を外すという采配の迷走っぷりだけがただただ目立つ試合だったように思われます。試合後、ザッケローニは「相手の勝ちたい気持ちが我々を圧倒的に上回っていた」というコメントをしていましたが、おそらくはザッケローニは完全にこの空気に飲まれてしまったのでしょう。日本人でこそ、隣国の予測不可能性には多少の免疫があるものの、ザッケローニはそんな極東の緊迫した政治バランス等は知らない、イタリアの人間ですから、これも自然と言えば自然なのですが。しかし、この敗戦は必ずや日本代表というチームの糧になるのは間違いありません。ザッケローニ就任以来の初の敗戦が、このようなある種異常な敗戦であり、指揮官ともども空気を飲まれるという経験を、消化試合で行うことが出来たということ。これは多大なる収穫です。と同時に、彼にはそろそろトップ下長谷部が不可能であるということを学んでもらわなければならないでしょうが・・・。しかし、繰り返しになりますが、敗戦の経験というのは非常に糧になりますし、また彼らは維持でも糧にするでしょう。試合後、少し眼が潤んでいた今野の姿を見て、そう確信しました。

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